「こどもたちのちいさな妄想や空想を実現できる図書館をつくりたい」 絵本作家・犬山シロのインタビュー

犬山シロアイキャッチ画像13
絵本作家の犬山シロさん

 

「らくがきのできる絵本の図書館を作る!」

オーダーメイドの絵本作家・犬山シロさんがそう宣言したのは今年の2月頃。
それから図書館の開館に向けて動き回る様子が連日伝わってきて、あれよあれよという間に、らくがきのできる絵本の図書館『めいちゃんち』が5月のこどもの日にオープンしました。

 

DSC_5176編集指示ありトリム無し13

らくがきのできる絵本の図書館『めいちゃんち』の手作り本棚など室内風景

 

依頼主にとっての、たったひとつの絵本を作ってきた犬山シロさん。

「絵本に描いてあることは、空想でも妄想でもなくて現実にできることなんだよってことを証明したくて」と、彼女は言いました。

 

子どもの頃は、絵本のような妄想と空想の世界で遊んでいて、現実との区別もつかず、それが原因で絵本が嫌いになっていた時期もあったという。

それでも、絵本大好き!な妄想少女はすくすくと成長し、大切な友人たちにも囲まれて、
いよいよ、絵本の世界を現実にしてやろうと企んでいます。

 

「絵本の世界を現実にするんだ!」ってだけでもワクワクする物語なのに、色々と話を聞いていると、絵本というモノが持っている“手放しちゃいけない何か”が見えてきて、「これは絵本というモノにいまいちど立ち戻りたくなるような素敵な話だし、なによりも、どこか切実感があって僕好みだぞ」と思って、勢い余って大真面目にインタビューを申し込み、このような記事を作りました。

 

インタビュー記事は、【図書館編】と【犬山シロ編】に分かれています。

【図書館編】:「こどもたちのちいさな妄想や空想を実現できる図書館をつくりたい」絵本作家・犬山シロのインタビュー

【犬山シロ編】:「じぶんの価値観や妄想、空想をそのまま外に出すのは、まだ怖い」絵本作家・犬山シロのインタビュー

「図書館ができるまで」「犬山シロのいまむかし」「絵本ってそもそも」「こどもとおとな」などなど、絵本の図書館『めいちゃんち』と犬山シロさんを軸にして、なんだか色々と盛り込んでます。

 

「子どもの頃は、どんな絵本を読んでいたかな?」と思い出を振り返り、立ち止まりながら、読んでいただけると嬉しいです。

 

撮影:安藤史紘

名称未設定-1

 

DSC_516013

DSC_524713

らくがきのできる絵本の図書館「めいちゃんち」の室内風景と、副館長のあおちゃん

 

名称未設定-1

 

絵本はせかいでした。
小さい頃からずっと絵本を読んでいたから、絵本の世界、妄想や空想の世界と現実との区別がつかなくなってたの。
こどもの頃は、そういう女の子だった。

 

cabf442d-6d58-4dba-939c-ebec31dc94b513

子どもの頃の犬山シロさん

 

例えば、
お父さんをめっちゃあやしいなと思ってた。
絶対こいつはどっかの国のスパイなんだって。
だから、いつかわたしは殺されるってほんとうに思ってたの。
銃を持って追いかけられる夢を見るくらい、お父さんのことを疑ってた。
仲良くしつつも、実はこいつ裏ではスパイなんだろう、みたいな。

 

── 怪しい行動でもしてたの?

 

いや、わかんない。
なんかね、別の何かと混同してたんだと思うんだけどね。

あとは、三日月を見て、
「あのバナナを取って!」みたいなことを言ってた。
まあ、おかしいじゃん。
「あのバナナを取って!取って!」ってねだるこどもって。
「あれは月だぞ」って言ってるのに全然言うことを聞かないこどもに対して、ふつうは怒ったり、「あれは月だからバナナじゃない」って説得をする。
だけど、うちのママがまたおもしろいひとで。
バケツに水を張って「じゃあ、お前掴んでみろよ。やれるもんならやってみろよ」って。
それをやったときに初めて、この世の中には掴めないモノがあるってことを知ったの。

 

── そういうことに初めて気が付いた。

 

そう、掴めないモノが世の中にあるんだという発見があったの。
こどもの頃から、おかしいこといっぱい言ってたんだけど、お母さんはずっと向き合ってくれてた。

 

きょじんのこと

おほしさまもぐもぐ

ちいさなあくま

犬山シロさんの妄想たち@facebook

 

でも、そういう妄想や空想を口に出してしまっていたから、
「なんかシロちゃんって変だよね」「変わってるよね」
みたいなことはずっと言われてた。
けっこう喋る性格で、妄想や空想の世界を現実だと思って言っちゃうから、上手くコミュニティに馴染めなかったのね。
しかも、すごいド田舎でずっと同じコミュニティで過ごしてきたから、いちど「この子変なんだ」って思われて、変人シールを貼られるとずっと変人でいなきゃいけない。

だから、
わたしにとって“普通”が、敵だった。
「普通じゃない」って言われるから。

体育祭とか文化祭とか修学旅行とかにも参加したことがないの。

 

── 授業は?

 

授業は出てた。
だけど、ほんとに盲目的に勉強するだけで、それが逃げ場みたいな感じだった。
だから、頭はよかったよ。頭だけよくて、それも反感買ったんだけど。
小学校・中学校は勉強だけして、高校は進学校に行こうって決めてた。
そこに行けば、コミュニティが変わる。
だから、受験勉強をがんばって、それで進学校に入ったの。
それからは友達とかコミュニティとかちゃんと出来始めて、生徒会をやったりするぐらいまで成長していった。
このときに、努力したりがんばったりすれば未来は自分で切り開けるっていうことを学んだから、なんか、折れない芯がひとつ出来あがったんだと思う。

小さい頃から、“普通”っていうことが羨ましかった。
何ごともなく馴染めるひとが羨ましかったし、
頭がいいってだけで馴染めるひとが羨ましかったし、
スポーツできるってだけでコミュニティに囲まれるひとが羨ましかった。

大学で初めてできた友達にそういう話をしたときに、
「その話おもしろいね。絵が浮かんだよ」って言ってくれて、
頭の中にあるゴミだと思ってた妄想が、ストーリーとして絵本になったの。
ほんとうにうれしかった。
それが最初の作品で、『ぼくはカメレオン』という絵本。

 

DSC_5273角丸30

犬山シロさんの最初の絵本『ぼくはカメレオン』

 

そのときに思ったことは、
妄想とか空想とか価値観みたいなモノがカタチになるんだっていうこと。
自分の妄想をゴミだと思ってて、自信も持ってなかったけど、そのゴミが価値になるってわかった瞬間に、「ああ、これはもう絵本作家やろう」って決めたの。

 

── 妄想とか空想とか、自分の世界を再現するために?

 

わたしは、自分のせかいを具現化するツールが絵本だと思ってる。

でもね、なんかね、これはわたしだけのことかもしれないけど、
こども向けの絵本をかくときは、
すごーーーく、こどもたちを騙している気分になるんだ。

せかいは、ほんとうはそんなにやさしくないのに、
絵本の中では、やさしいふりをしたり、うそなのにほんとのふりをしたりする。
それが、おとなになったときに絵本を読み返すと、回って回って解釈にストンと落ちてしまう、理解してしまう。
「あー、そういうことか」って。

だからね、わたしの図書館では、
そんないつかうそになってしまう絵本でも、
いま、現実にできるんだってことを証明したくて、
「絵本に描いてあることは空想でも妄想でもなくて、現実にできることなんだよ」
ってことを証明したくて、
おとなのスキルを掛け算することで実現させようとがんばってみたいの。

 

── 大人のスキル?

 

例えば、
彼女のような絵が描けるというおとなのスキルがあれば、頭の中に眠っていたゴミがカタチになる。
それがおとなのスキルを掛け算するってことで、図書館のコンセプトにもなっている。

 

96b1b4f0-b82b-48a6-a60d-91d912913

『めいちゃんち』こどもたちの妄想×おとなのスキルのイメージ

 

例えば、
『100階建てのいえ』っていう絵本があって。
こどもの頃は、住みたい部屋とか家とかって結局自分で決められないよね。
お父さんたちが家を買ってきて、お母さんたちがレイアウトしちゃう。
でも、もしかしたらティッシュ箱の中に作った理想の部屋が実現できるかもしれない。

あとは、『ミッケ』という絵本。
『ミッケ』は理想のせかいを詰め込んだ絵本だなと思ってて、
キャンドルアーティストと掛け算して、キャンドルで自分の理想のせかいを色も混ぜながらコネコネして、それをみんなで灯すことによって、いろんなせかいが生きているよねという可視化みたいなことができるかなって思ったり。

 

13308550_1332378536777853_8528672505810240221_o13

イベント「ぐりとぐら、スイミーをモチーフにしたキャンドルをつくろう!@めいちゃんち」の制作風景

13317080_1332378323444541_120509855016031363_o1313323321_1332378430111197_4436132147850331501_o

イベント「ぐりとぐら、スイミーをモチーフにしたキャンドルをつくろう!@めいちゃんち」で完成したキャンドルたち

 

「実現出来たらいいなー」とか「これ美味しそうだなー」みたいな
こどもたちのちっちゃなアイデアと、おとなたちの持っているスキルを掛け算すれば、絵本のせかいは絶対に実現できると思ってて、その場として図書館を作ろうかなって辿り着いた感じ。
妄想や空想は実現できるってわかったから、こどもにとって、そういうおとながいるということは大事だなって。

 

── そこをちゃんと伝えていきたい?

 

伝えたいっていうよりは、実感してほしいなって。
「あのイベントおもしろかった」とか何かを作る楽しさとか、今はそういうことを感じてくれるだけでもいいの。今はね。
だけど、おとなになったときに、こどもの頃のあの経験が、今の、この価値観に繋がってんだなってことを思ってくれたら嬉しい。

 

── 絵本じゃん、それ。

 

そう、絵本。
おとなになって読み返したときに、
昔読んだときと価値観がちょっと変わってることに気がつく。
そんな絵本みたいな瞬間が図書館でもいつか起きたらいいな。
成果物は期待してないの。
種をいっぱい播くという仕事がしたい。

 

── 『ルピナスさん』もそんな感じだよね、きっと。

 

『ルピナスさん』もそうだね。そんな感じだよね。

 

DSC_5261

『ルピナスさん』のあらすじ:
「世の中を、もっと美しくするために、なにかしてもらいたいのだよ」
ルピナスさんは、海をみおろすおかのうえにある、小さないえにすんでいます。いえのまわりには、あおや、むらさきや、ピンクの花が、さきみだれています。世界中を旅行したルピナスさんは、おじいさんとの約束をはたすためにステキなことを思いつきました。

 

── まずはルピナスさんが行動して、そのあとにみんながルピナスさんの植えた花に気付いて、そのうち子どもたちもきっと何かに気付いて「世の中を美しくする」ことをし始める。そして、世界が美しくなっていく。

 

そうして、初めて、ルピナスさんっていう人が認められる瞬間が来る。
変なおばさんってずっと思われてたんだけどね。

 

── 絵本ってすごいね。期間がめちゃくちゃ長い。

 

そう、長い。木を育てる感覚。

 

── 場合によっては、人生の最後に、その人が気付くかもしれない。

 

でも、わたしはその瞬間に立ち会えないけど、いいのそれで。

 

── 切ない。


けど、そういうもんなんだろうなって思ってる。
何かをするということは。
成果物の見えない仕事。
だから、奥が深くて、いいなーって思う。

 

── やっぱり長く残ることは大事?

 

消費される感覚が嫌なの。
消費するってことはいつかなくなるってことじゃん。
それが嫌なの。

 

── その人の中から?

 

その人の中から。

 

── もっと残ってほしい?

 

もっと残ってほしい。

 

── そこに魅力を感じるのはなんでなのかな。

 

そこに魅力を感じるのは、
みんな、絵本を読んで育っているから。
その歴史みたいなモノをなかったことにしちゃダメだと思っている。
なかったことにしちゃダメというか、なかったことにしちゃったらかわいそう。その歴史たちが。
その歩んできた道のりが、忘れられちゃうのがかわいそうって思っちゃう。
すごくさみしくなる。

だから、こどもの頃に読んだ絵本は取っておいてほしいのね。

 

── 絶対に影響してるよね。表面の物語じゃない、その奥にある物語が絶対に染みついてると思うんだよ、絵本って。それは同時に怖くもあるんだけど。何を読むかで決まっちゃうから。

 

そう、何を選ぶかで決まる。
だから、お母さんやお父さんのセンスが問われてくると思う。絵本はね。
大事なモノとか価値観の形成は、絵本が種をまいて、経験が水をやって、その再思考が花を開かせているのかなって。
なんでこんなこと思ったんだろう?
なんでこの絵本が好きだったんだっけ?
って考える瞬間が、やっと納得感を芽生えさせる。

 

── 回って回って解釈に落ちるってこと?

 

絵本のなかのことばたちは、ストレートに見せかけて、ほんとは回って回って解釈に落ちるのが醍醐味なんだけどなー。
こどもの頃に読んでた絵本をおとなになって読んでみたら、「見方が変わってた!」なんていう名作も多い。

 

── それでいうと、経験の質も大事になってくるよね。

 

そう、質は大事だと思う。あとは、“問い”も大事。

 

── 花を咲かせるためには。

 

その再思考ができた絵本は、そのひとにとって大事な絵本になる。

 

── なるね。そりゃなるよ。自分の根本にあるんだもん。それに気付いちゃうんだから。

 

そうそうそう、それが回って回って解釈に落ちるってことかもしれない。

 

名称未設定-1

 

「回って回って解釈に落ちる」

不思議な言い回しだなーと思いつつ、それはどういうことなんだろうと最初は疑問だった。
でも、何かが宙をくるりくるりと回って、ストンと人間の中心(つまり、腑)に落ちるイメージは、まるで魔法使いが踊りながら杖を振るような愉快さがあって、それでいて大切なモノはどうしても一度や二度じゃ手に入らないんだなーという寂しさもあり、理解できずともなんだか素敵な語感だとそう感じていた。

そんな折、犬山シロさんがfacebookで『スイミー』についての投稿をしていた。
『スイミー』という絵本の中に彼女の歴史が積み重なり、『スイミー』という絵本が彼女にとってより大切なモノになっていく光景が確かにそこに存在していて、「これが“回って回って解釈に落ちる”ことなのかもしれない」となんだか嬉しくなった。内容は切なすぎるけど。

せっかくなので、犬山シロさんの『スイミー』についての投稿をそのまま引用する。

【ぼくが、目になろう】
そう言って、スイミーは赤い魚たちをまとめ、大きな魚に立ち向かいました。
子供の頃よんだときは、スイミーのその勇敢さに少しの憧れと、みんな同じでなければならない、仲良くしなければならないということに恐怖を覚えた絵本でした。海のなかでそんなことが展開されてたなんて怖くて仕方なくて、地上ですら息しにくいのに海中も大変だなと思ったのを今でも覚えてる。
いま、図書館PJをやってみて少しおとなになったわたしがスイミーを読むと、こころの奥底の深いところで噎び泣きたいのを堪えたくなる。
スイミーは、孤独だ。誰かの目になれたって、それでその他大勢が救われたって、ほかのひとと色が違うだけでスイミーはどこまでいってもひとりなんだ。
ひとりだから、知恵を絞って、かしこく、存在意義を自ら見出さなければならない。目になることでしか意義を見つけられなかったスイミーを、わたしはいとおしくも切なくも感じていて、
いま、こころの奥底でわんわんと泣き出したいのを堪えている。
ことばをひとつひとつ、積み木みたく並べるように、
もっと、より、ふかいところでおしゃべりがしたい。
だって目になれなかったスイミーは、海藻のジャングルの影で気泡相手にことばを尽くそうとしているのだから。

名称未設定-1


── 5月に『めいちゃんち』はオープンしたわけだけど、今後はどうしていきたい?


図書館としてありたい姿と、巣鴨に図書館を作った意味としてありたい姿という2つがある。
まずは、こどもたちの小さなアイデアをちゃんとカタチにしてあげることができる図書館でありたいなって思ってる。

なので、『めいちゃんち』では、こども委員会を発足します!

 

13268551_1328603317155375_6747899966661016898_o

 

イベントは、こども委員会で内容決議してやりたいかやりたくないか決めて、こどもからおとなに逆オファーする形を取ろうと思う。
わたしはそこに全力で伴走する。
土台となる構想は、委員たちと話し合いながら練る。

あと、巣鴨の中での立ち位置としては、巣鴨のベンチになりたいの。
ベンチは何か用があって座るもんじゃなくて、なんかちょっと空いてたから座ったり、ちょっと疲れてたから座る。
今って、ベンチみたいに、ホッとなんのようもなく落ち着ける場所が少ないなと思ってる。

 

 

【後編】続きはこちら:「じぶんの価値観や妄想、空想をそのまま外に出すのは、まだ怖い」絵本作家・犬山シロのインタビュー

 

DSC_519813

 

名称未設定-1

 

c0a9e637-5816-48d7-933f-ca9e4c384f1913絵本の図書館『めいちゃんち』

巣鴨にある築70年の古民家を改装・開放したらくがきのできる絵本の図書館。

【住所】東京都豊島区巣鴨1-20-4
JR山手線「巣鴨駅」南口より徒歩3分
【開館日】毎週土日
10:00~17:00(こどもの部)
18:30~(おとなの部 ※不定休)
【貸し出し】絵本の貸し出しはおひとり様2冊まで(2週間)※図書カード発行につきデポジット500円
https://www.facebook.com/meichanchi/
http://1234coco-artbooks.jimdo.com/