「じぶんの価値観や妄想、空想をそのまま外に出すのは、まだ怖い」 絵本作家・犬山シロのインタビュー

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絵本作家の犬山シロさんと絵本の図書館『めいちゃんち』副館長のあおちゃん

 

「らくがきのできる絵本の図書館を作る!」

オーダーメイドの絵本作家・犬山シロさんがそう宣言したのは今年の2月頃。
それから図書館の開館に向けて動き回る様子が連日伝わってきて、あれよあれよという間に、らくがきのできる絵本の図書館『めいちゃんち』が5月のこどもの日にオープンしました。

 

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らくがきのできる絵本の図書館『めいちゃんち』の手作り本棚など室内風景

 

絵本の図書館を作ろうと決意した経緯は、【前編】の「こどもたちのちいさな妄想や空想を実現できる図書館をつくりたい」絵本作家・犬山シロのインタビューからどうぞ。

 

この【後編】では、「好きだったけど嫌いになった」「自分の価値観をまずはよいしょって横に置く」「まだ、怖い」などなど、オーダーメイドの絵本作家・犬山シロさんをもう少し掘り下げて書いています。
最後には、犬山さんオススメの絵本Best3も紹介していますので、ぜひ絵本選びの参考に!

 

撮影:安藤史紘

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副館長のあおちゃんも読書中

 

── 絵本とか自分の妄想とか空想はずっと好きだった?

 

好きだったけど嫌いになった。
色々とあったから、絵本のせかいを恨んでいた時期もあった。
ひとと違うことを考えてしまう、思いついてしまう自分が嫌だった。

 

── 違う発想になっちゃうのはなんでだろうね。

 

それは絵本のせいだと思ってる。
こどもはお気に入りの絵本を何度も読んでって来るんだけど、わたしの場合は、毎日違ったんだって。
次これ次これって毎日違う絵本を30冊ぐらい。
だから、これ好き!みたいな絵本はなくて、この世界が見たい!この世界も見たい!という性格だったらしいよ。
その分、アイデアとか発想とかの蓄積量もあって、多種多様になってて、隠そうにも隠せなくて、ピロって出た妄想や空想が周囲の反感を買っちゃった。

 

── 巨人の妄想はすごく好きだったよ。

 

巨人のこと

犬山シロさん「巨人」の妄想@facebook

 

あー、巨人の話ね。
一時期、巨人の中に住んでいるってすごく思ってたんだよね。

 

── なんで巨人なんだ………。

 

なんか、すべてその巨人の中で起こっている範囲のことならば、ある種幸せなんじゃないかと思ったんだよね。せかいは。
巨人のせいにできるっていうか。
巨人っていう得体のしれない誰も勝てないモノのせいにできるからこそ人は幸せになれる、人は幸せに思うんじゃないかって。

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── “大人と子ども”についても聞いてみたいと思ってて。やっぱり子どもであることは大事?

 

こどもであることは大事………。

 

── あるいは、子どもの部分を持ち続けること。

 

それは大事。

 

── それは犬山さんにとって?それとも一般論としても大事だと思う?

 

わたしにとっては、こどもでいることが大事。
一般論で言うと、フラットでいることが大事。
フィルターがかかってない状態。色眼鏡がない状態。

 

── 偏見とかってこと?

 

偏見とか価値観とか。
価値観って偏見にもなると思ってて。
自分と違うひとが現れたときに、自分の価値観をまずはよいしょって横に置ける力が大事だと思ってる。
横に置いてから、そのひとと向き合ってみる。

 

── 難しそうだな。

 

そう、難しいと思う。

 

── 犬山さん自身はできる?
あ、そもそも大人じゃないのか。

 

そう、そもそも固定の価値観がない。
これが正しい!こうしなきゃいけません!みたいなものはない。
臨機応変にやっているタイプ。

 

── それが、子どもの良さなのかな。

 

こどもの良さだと思う。
だから、こどもはおとなたちが行ったことのない路地裏を見つけられるし、秘密基地みたいなものを作る能力があるんだと思う。

 

── 公園の生い茂った草木を見つけて、固定観念でただの草木だと思わずに、「おお、家だ。住めるじゃん」ってフラットに物事をとらえて、秘密基地を発見できる能力…。

 

それでいうと、うちの空間では、ここ。

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この隙間はわざと作ってるの。
「なにここー!」って言って、ここに飛び込んでくるのはこどもしかいない。
だから用意しているの。クッションも置いて。

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── オーダーメイドの絵本作家としては、これまで何冊作ったの?

 

わかんない。数えてない。データで残ってもないし。
急いで作っても1冊作るのに3ヵ月くらいかかるの。

 

── 自分の発想力やアイデアに対する自信がある?

 

発想力やアイデアに自信はないんだけど、それをカタチにすることには自信がある。

 

── え、そうなの?なんで?

 

それは周りにいる友達がすごいから。

 

── 何かモノを作る上でってこと?

 

何かモノを作ったり何か物事を発想したりする上で。
基本的に、私の友人が全員集まれば解決できない問題はないと思ってる。

 

── できるんだからやろうよってこと?

 

そうそう。
自分自身に価値はないんだけど、自分のまわりにいるひとには価値があると思ってる。
だから、わたしがゴミみたいなアイデアを出して、それをカタチにする友人がいて、それを受け取るひとたちがいて、結果として、そのひとたちの為になっていた。
そして、なぜか感謝されてびっくりしたっていう流れ。

 

── そういう経験がある?それこそオーダーメイドの絵本が最初?

 

オーダーメイドの絵本が最初かな。
わたしの考え方やアイデア、発想、物語を友人がストーリー立てて絵にしてくれて、一冊の本になって、誰かの課題を解決する。
『coco』っていう絵本があったからかな。

 

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依頼主にとって大切なひとの誕生日プレゼントとして作った『coco』

 

── 大学からオーダーメイドで絵本を作り始めたという話だけど、それは解決すべき問題があって、その解決手段として絵本が必要だったの?

 

オーダーメイドとか誰かの課題解決のツールとしての絵本だったら、自分の妄想や空想をちょっと混ぜれるかもしれないっていう感じ。
正直、自分の妄想や空想を素っ裸のまま外に出すことにまだ怖さがある。

 

── 人に見せるのはまだ怖い?

 

怖いね。すごい怖いね。むっちゃ怖い。
「絵本作家やってるんですよね、作品ないんですか?」って言われても、見せない。
っていうか、見せれない。
「そのひとだけの一冊っていうコンセプトで作ってるんで、見本ないんですよ」って。

 

── お客さんに見せることは怖くないの?

 

お客さんに見せることは怖くない。
そこには課題があるから。

 

── 課題があるし、課題解決しているという自信がある?

 

あなたの課題に対するソリューションですっていう提供の仕方をしているから。
わたしの空想ですっていう提供の仕方はしていないわけ。
そこ、逃げてるの。ふわっと。
そんな中にわたしの妄想とか空想とか価値観とか、ちょっとずつゴマ塩程度に入っているんだけど、理解されなくても仕方ない程度。

 

── オリジナルの絵本を自分ひとりだけで作ることはできる?技術云々ではなくて、感情として。話を聞いていて、なんとなく、犬山さんが誰かと一緒にモノを作る理由は、自分ひとりで作ることが怖いからなんじゃないかなって思って。

 

うんうんうん、そうね。
自分ひとりで作ることはできると思うけど、絶対に誰にも見せない。
人間関係でいうと、人にはすごく守りたいモノが絶対にあると思ってるの。
それはあって当然だと思ってるし、ちゃんと大事に箱にしまって、鍵かけとけよって。
だから、相手がすぐ本音を言ってくれる関係になってくれるとは思わないし、相手の言葉の裏にあることを考えるし、ちゃんと分かり合える関係を築くには時間がかかるモノだと思ってる。

 

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絵本作家の犬山シロさんと絵本の図書館『めいちゃんち』副館長のあおちゃん

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── 最後に、犬山シロさんオススメの絵本Best3は何ですか?

 

まずは、スイミーでしょ。

 

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『スイミー』のあらすじ:
小さな黒い魚スイミーは、兄弟みんながおおきな魚にのまれ、ひとりぼっちに。
海を旅するうちに、さまざまなすばらしいものを見ます。
そして、再び、大きな魚に出会いますが…。世界中で翻訳され、日本でもロングセラーを記録しているレオ=レオニの代表作です。

 


うーん、でも、悩むなあ。
正直、『ぼくはカメレオン』が一番いいんだよ(笑)

今だったら…、『ルリユールおじさん』と『ジャリおじさん』を選ぶかな。

 

── どういうところが好き?

 

『ルリユールおじさん』は、なんだろう、消費されていない感覚。
壊れたら捨てないで直すという物語。
そういうところがわたしにとって大事なんだよね。

 

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『ルリユールおじさん』のあらすじ:
【わたしも、魔法の手を持てただろうか】
たいせつにしていた植物図鑑がこわれてしまった、パリの少女ソフィー。
本をなおしてくれる人がいると聞いて、ルリユール(製本職人)を訪ねる。
本への愛情と、時代をこえてつながる職人の誇りを描いた傑作絵本。

 

「いやいや、それは買いたくても買えないものなんです」みたいなものを持っているひと、ひとつでもそういうものを持っているひとは、素敵だなって思う。
それは絵本じゃなくてもいい。車でも家でもお守りでもいい。
そのひとの歩みっていうか、人生を見守っている何か。
そういうものを持っているひとは素敵だと思う。

 

── 『ジャリおじさん』は?どういう絵本?

 

………何もない絵本。

 

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『ジャリおじさん』のあらすじ:
現代美術の旗手、大竹伸朗が不思議な絵本を作りました。
鼻の頭にヒゲのある(!)ジャリおじさんの冒険物語。
長い道を歩いていくと変なことが起こるのです。ナンセンス絵本の傑作。

 

── ………読んでもらうしかないね(笑)

 

そう、読んでもらうしかないの(笑)
何もない絵本だから、いつ読んでも感想が変わるし、いつ読んでもおもしろいと感じる。
これはもうほんとにすばらしい絵本だと思ってる。
何もないから、いい絵本なんだと思うんだけどね。

 

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【編集後記】
才能ってなんだ?と、考えることがある。
1を知って10を理解するとか足がバカみたいに速いとか色々あると思うけど、「1+1」という大前提に、なぜか(+■)を混ぜ込んじゃって、「2+■」と答える能力は才能だと思う。 

理性では説明し切れない“物語”(2+■)を無意識のうちに生み出してしまうという能力。
1+1」の答えが「2」だなんて、想像通りでいまいちテンションが上がらないし、勉強するなり努力をすればたぶんその答えに辿り着ける。
でも、を生み出す能力は、努力ではきっと手に入らない。

そして、僕は、このブラックボックス(これ→)がたまらなく好きだ。

「1+1は2だ」って言ってるのに、このは、そんなこの世界の大前提を、無邪気に愉快に時折切実にぶっ壊して進んでいく。
愉快だよ、それに爽快だ。脳天そのものをバットで思いっきり打ち抜かれるような清々しさ。「いいぞ、もっとやれ」ってニヤニヤしながら言いたくなる。  

大真面目な話で、
は、つまり、その人が積み重ねてきた経験そのものであると思っている。
だからこそ、それは、この世界の清濁を飲み込んだ何かであり、そのかけがえのなさにどこか切なさが感じられる。  

愉快だし、切ない。  

泣きながらでも、笑うような、そういう感情。
泣きながらでも、立ち上がるような、そんな感覚。

僕はそういう感情を“感動”と呼ぶし、そういう存在を、こどもの頃から憧れている“ヒーロー”の姿と重ね合わせている。

大事なことなので2回言いますが、
だから、僕は、(2+■)がめちゃくちゃ好きなんだ。
そして、みんな心のどこかでそういう存在を待ち望んでいるんだと思う。(たぶん。そうだといいな)
だって、ヒーローってそういうもんだから。

 

なので、

だからこそ、

あなたの絵本が読んでみたい。

って、そう思うわけです。

 

では、以上。


犬山さんがfacebookに投稿していた『スイミー』に対する再思考(最新Ver.)があったので、最後に引用して終わります。

【つづき】
スイミーは、やっぱり孤独でした。
黒い身体を生かして目になり、みんなの命を救ったとしても、 結局スイミーはどこまでいっても赤色にはなれないのです。ほんとうは少しだけ、みんなと同じであるということに羨ましさを感じるのでした。
赤い魚たちと別れ、スイミーはまた暗い海のなかを泳ぎます。 海藻のジャングルをやっとのおもいで抜けたとき、スイミーは見たことのない魚に出会いました。
黄色い魚、紫の魚、ピンクの魚。
その魚たちもひとりで暗い海のなかを泳ぎながら、大きなマグロに怯えていたのです。
スイミーは言いました。
「ぼくが、めになろう」
魚たちは身を寄せ合って、大きなカラフルな魚になりました。
マグロは、初めて見る得体の知れないカラフルに怯え、逃げて行きました。
スイミーは、孤独と少しだけ仲良くなれたような気がしました。
おしまい。

 

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c0a9e637-5816-48d7-933f-ca9e4c384f1913絵本の図書館『めいちゃんち』

巣鴨にある築70年の古民家を改装・開放したらくがきのできる絵本の図書館。

【住所】東京都豊島区巣鴨1-20-4
JR山手線「巣鴨駅」南口より徒歩3分
【開館日】毎週土日
10:00~17:00(こどもの部)
18:30~(おとなの部 ※不定休)
【貸し出し】絵本の貸し出しはおひとり様2冊まで(2週間)※図書カード発行につきデポジット500円https://www.facebook.com/meichanchi/
http://1234coco-artbooks.jimdo.com/